Cats and Dogs

現像ノートSeason 2STIL.TOON第 1 話 / 全 6 話

現像ノート

顔を隠さずに、隠す ── 現像ノート Season 2、二つ目のアプリ STIL.TOON

撮れた一瞬の熱量を、そのまま誰かに渡したい。でも今は、顔を出すことに少し気をつかう時代です。自分の家族はよくても、隣に写り込んだ人の顔まで、私の一存で世界に出していいのかは分からない。── 現像ノート、Season 2。二つ目のアプリ STIL.TOON の話を、まずはなぜ作ったのか、から。

顔を隠さずに、隠す ── 現像ノート Season 2、二つ目のアプリ STIL.TOON

「現像ノート」では、これまで STIL.(スチルドット)── 動画から一枚を取り出す iPhone アプリ ── を、どう作ってきたかを書いてきました。Season 1 の最後に、「一本のアプリから、家族になるまで」という話を置きました。今日からの Season 2 は、その続きです。二つ目に作ったアプリ、STIL.TOON の話をします。

STIL.TOON は、写真のなかの顔を、かわいいイラストに描き換えるアプリです。最初の一枚は、いつものように、なぜこれを作ったのか、から。

一瞬の熱量には、たいてい誰かの顔が写っている

正直に書くと、私自身は、家族の顔を写真に出すことに、それほど抵抗がありません。けれど周りでは、「子どもの顔は出さないほうがいい」「家族の顔は伏せておくべきだ」という空気のなかで、撮った写真を自由に出せずにいる人の話を、よく聞きます。

理由は、よく分かります。一度出した顔は、もう引っ込められない。慎重になるのは当然です。ただ、それでも私は、もったいないと思っていました。いい写真には、たいてい一瞬の熱量が写っています。笑った顔、はしゃいだ瞬間、その場にいた人みんなの空気。それを「顔が写っているから」という理由だけで、誰にも渡せないまま仕舞っておくのは、惜しい。

そしてもう一つ、私自身がいつも引っかかっていたことがあります。自分の家族はよくても、隣にたまたま写り込んだ人や、一緒にいた友人の顔まで、私の一存で世界に出していいのか。これは、けっこう難しい判断です。本人にいちいち確認するわけにもいかず、結局、いい一枚をそのまま手元に置いておくことになる。

熱量は分かち合いたい。でも、誰かの顔を勝手に出すことはしたくない。この二つを、両方かなえる方法はないか ── そう考えた末にたどり着いたのが、STIL.TOON でした。

消すのではなく、描き換える

顔を守るいちばん簡単な方法は、隠すことです。モザイクをかける、スタンプで覆う、ぼかす。でも、そうやって消してしまうと、そこにあった表情も、その場の空気も、一緒に消えてしまいます。守るために、いちばん渡したかったものを失う。

STIL.TOON が選んだのは、消すことではなく、描き換えることでした。写真のなかの顔を見つけて、それをイラストに置き換える。表情やポーズ、その瞬間の雰囲気は残したまま、「誰だか分かる」という情報だけを、そっと外す。隠さずに、隠す。タイトルにした「顔を隠さずに、隠す」は、そういう意味です。

STIL.TOON で顔をイラストにした例

イラストに変える処理は、iPhone の中で動く Apple Intelligence が担っています。その仕組み ── どうやって顔を見つけ、どうやって絵にしているのか ── は、次回じっくり書きます。今日のところは、「顔を消さずに、雰囲気ごと残して守る」という考え方だけ、置いておきます。

預からない、はここでも同じ

STIL. のときに、いちばん曲げたくなかったのは「あなたの素材は、外に出ません」でした。STIL.TOON も、そこは同じです。写真は端末の外に送りません。顔を見つけるのも、イラストに描き換えるのも、すべてあなたの iPhone の中だけで完結します。アカウント登録もなく、App Store のプライバシー表示は「データを収集しません」です。

考えてみれば、当たり前のことでした。顔を守るためのアプリが、その顔の写った写真をサーバーに送っていたら、話になりません。守りたいものを、まず自分が握らない。STIL. で決めたこの設計を、STIL.TOON はそのまま受け継いでいます。

Season 2 で書いていくこと

この Season 2 では、STIL.TOON を作るあいだに起きたことを、順番に取り出していきます。

  • iPhone が、どうやって顔を見つけて、絵に描き換えているのか
  • 公開 API だけで、顔だけをきれいに切り抜くまでの試行錯誤
  • まだ誰も使っていないうちに、つくりを丸ごと作り直した話
  • 透かしは、制限であると同時に、広告でもあるという話
  • キックオフから一週間で、App Store に並ぶまでの記録

一つ目の STIL. と同じように、誇張なしの舞台裏を書きます。一本のアプリから家族になっていく、その二人目が、どう生まれたか。

はじめます

撮れた熱量を、誰かの顔を勝手に出さずに、そのまま渡す。STIL.TOON は、そのために作りました。次回は、その「顔を絵に変える」中身を、iPhone がどう動いているのかから書いていきます。

STIL.TOON は App Store で公開しています。よければ、出せないままになっている一枚を、もう一度開いてみてください。

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