
「現像ノート」では、動画から一枚を取り出す STIL. と、顔をイラストに変える STIL.TOON を、どう作ってきたかを書いてきました。今日からの Season 3 は、四本目のアプリ STIL.BIZ の話です。名刺をカメラで撮るだけで、連絡先にするアプリ。名刺を、連絡先に。 ── 今度は初めて、暮らしではなく仕事の道具を作りました。最初の一枚は、いつものように、なぜこれを作ったのか、から。
名刺は、他人の束
名刺入れを開けてみると、よく分かります。そこに入っているのは、ほとんど自分の情報ではありません。もらった人の名前、会社、部署、電話番号、メールアドレス。全部、他人の個人情報です。ときにはそこに、どの会社の誰とつながっているか、という関係そのものまで写っている。
世の中には、名刺を撮ってクラウドで管理するサービスがいくつもあります。便利なのは分かります。でも私は、そこにずっと引っかかっていました。自分の写真ならまだしも、預かった他人の連絡先を、よそのサーバーに上げてしまっていいのか。名刺は、その人が「あなたに」渡したものであって、どこかのクラウドに置かれることまでは、たぶん想定していない。
だから、端末の中だけで
STIL.BIZ は、名刺を撮って、読んで、項目に振り分けて、連絡先にする ── その全部を、この iPhone の中だけで完結させます。撮影も、文字認識も、振り分けも、保存も、端末の外に出ません。サーバーに送らないし、アカウント登録もありません。
STIL. のときに、いちばん曲げたくなかったのは「あなたの素材は、外に出ません」でした。BIZ では、それが少し重くなります。守るのは、自分の素材ではなく、あなたが預かった、誰かの情報だからです。だからこそ、端末の外に出さない、という一点を動かしませんでした。
四本目は、仕事の道具
STIL.(動画から一枚)も、STIL.TOON(顔をイラストに)も、どちらかといえば暮らしの側の道具でした。BIZ は、ファミリーで初めての、仕事の側の道具です。
名刺は、仕事の関係が始まる入り口です。だからこそ、軽く扱えない情報が詰まっている。便利さと引きかえに、それを誰かに預けるのではなく、自分の手の中だけで片づける。仕事の道具こそ、そうあってほしいと思いました。
Season 3 で書いていくこと
この Season 3 では、STIL.BIZ を作るあいだに起きたことを、順番に取り出していきます。
- 名刺アプリなのに、専用のカメラを作らなかった話
- AI が動かない端末にも、同じ体験を届けるための作り方
- 連続スキャンで五枚目に固まって、仕様ごと作り替えた話
- 「ピントが甘い」で名刺を落とすのを、やめた話
- 撮った一枚が、連絡先になるまで
一本目、二本目と同じように、誇張なしの舞台裏を書きます。家族が、仕事の側にも一本、増えていく話です。
はじめます
名刺を、連絡先に。預かった情報を、誰かのサーバーに置かずに。STIL.BIZ は、そのために作りました。次回は、名刺アプリなのに専用カメラを作らなかった、その理由から書いていきます。
STIL.BIZ は App Store で公開しています。アプリのことは stil.photo/biz、本体は App Store に置いてあります。