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棚のCD第 3 話 / 全 11 話

棚のCD

John Squire『Time Changes Everything』── 多くを語らない、真のアーティストの一枚

The Stone Roses のギタリスト、ジョン・スクワイアの初ソロ作品『Time Changes Everything』。フロントマンを誰かに任せて、自分の溢れる才能を音に注ぎ込んでいた男が、初めて自分の声で歌った一枚です。

John Squire『Time Changes Everything』── 多くを語らない、真のアーティストの一枚

このアルバムは、たぶん 語りすぎないほうがいい 種類の作品です。

ジョン・スクワイア(John Squire)。 1980 年代後半から 90 年代前半にかけて UK で起こったいわゆる マンチェスター・ムーブメント を象徴したロックバンド、The Stone Roses(ストーン・ローゼス) のギタリスト。 そんな彼が 2002 年に発表した、初のソロアルバムが『Time Changes Everything』です。

このソロ作品に触れたことのある人は、きっと多くないと思います。だからこそ、棚の CD シリーズで取り上げたくなりました。

ストーン・ローゼスと、ジョン・スクワイアという人

The Stone Roses といえば、2011 年の再結成 が記憶に新しいかもしれません。 ボーカルのイアン・ブラウン(Ian Brown)と、ジョン・スクワイア。この 2 人の不仲は界隈では有名な話 で、再結成のニュースにはほとんどの人が驚いたはずです。

近いところだと、Oasis のギャラガー兄弟の喧嘩からの再結成も、空気感としては似たものがあります。 こじれた仲が、何年も経ってから音楽の前で和解する ── そういう景色は、見届ける側にとっても、特別なものです。

私は学生の頃から、ストーン・ローゼスの作品におけるジョン・スクワイアの仕事に強く惹かれていました。 ギターのフレーズ、音作り、ジャケットのアートワーク(彼自身が絵を描いている)、メロディラインの組み立て方。 彼の手の中から出てくるすべてのものが好きで、いまも自分の音楽の聴き方や作り方に影響を与え続けています。

フロントを誰かに任せて、才能を発信させるタイプの人

ジョン・スクワイアという人を私の中で言葉にするなら、こうなります。

フロントは誰かに任せて、自分の溢れ出る才能を、その誰かに発信させる。

ストーン・ローゼス時代のイアン・ブラウンが、まさにそういう関係だった。 スクワイアの音や言葉が、ブラウンというフロントマンを通って世に出ていく。 バンドの真ん中に立つ人ではないからこそ、世に出ていく音そのものに、彼の指紋がくっきり残っている。

そんな彼が、ソロという形で 初めて自分の声で歌った のがこのアルバムです。

絞り出すような、彼の歌声

スクワイアの歌い方は、ボブ・ディランやジョージ・ハリスンを連想させる、絞り出すような発声が特徴です。

決して上手いシンガーではない。技巧的でもない。 それでも、自分が作ったメロディを自分の声で運ぶしかない瞬間がある ── そういう 必然性のある歌 が、このアルバムには鳴っています。

まず 1 曲目の "Joe Louis" を聴いてみてください。 ここで何かしら感じるものがあったら、たぶん、最後まで通して聴いていいアルバムです。 何も感じなかったら、それはまた別のタイミングで出会うべき作品なのかもしれません。

このあたりの体感は、人によってかなり違うと思います。 だから、多くを語りたいけれど、あえて語らない。 聴いた人が、それぞれの距離で受け取ってくれたら、それでいいアルバムだと思っています。

ギタリスト視点からの補足 ── グレッチではなく、ストラト

ここからは少し、ギターを触る側の視点で書きます。

ストーン・ローゼス期のジョン・スクワイアといえば、グレッチ(Gretsch)のセミホロウ・ボディ が象徴的です。 ライブの映像でも、ジャケット周辺のビジュアルでも、あの大きな箱型ギターを抱えた立ち姿で記憶している人が多いと思います。

ところが、実際のレコーディングでは、フェンダー・ストラトキャスター(Fender Stratocaster)を使っていた ── という記事を、どこかで読んだことがあります。

これを知ったとき、自分の中で 妙に腑に落ちた感覚 がありました。

「やっぱりセミホロウのハムバッカーじゃ、その音は出ないでしょ」

ステージでのビジュアルとしてのグレッチは正解でも、スクワイアのあの粘りのある中域や、フレーズの輪郭のシャープさ は、ストラトでないと出ない、と私は感じていました。 ストラトのリアピックアップから太い音を引き出す彼の音作りは、自分のギターサウンドの参考にもなりました。

このソロ作でも、ギターの「粘り」と「輪郭の鋭さ」が同居する瞬間が何度もあります。 ロックでありつつも、英国の田園風景を思わせる風通しのよい湿度をまとった、彼ならではのギターサウンドが、ここにも鳴っています。

Time Changes Everything の裏側、CD ディスクとブックレット

アーティストに愛される、真のアーティスト

ジョン・スクワイアは、他のアーティストたちに静かに愛される、真のアーティスト という言い方が、しっくりくる人だと思います。

派手なフロントマンではなく、メディアに頻繁に出てくる人でもない。 それでも、彼の作る音に触れたミュージシャンたちは、確実に何かを持ち帰っている。 私自身、ギターを弾く人間として、ジョン・スクワイアからもらったものは、いまも消えていません。

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棚の CD シリーズ、第 2 回はこの一枚でした。 このアルバムについては、本当はもっと書きたいことがあるけれど、ここで止めておきます。 アルバムには、聴き手のための余白を残しておいてほしい ── そういう作品だと思うからです。

次に取り出す CD は、まだ決めていません。 クローゼットを開けて、なんとなく目に止まった一枚を、また連れてきます。

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