
「俺たちがいなくなったとしても音楽はここに残るんだ……」
帯にそう書かれているアルバムを、私は持っています。 Travis の 2nd アルバム、『The Man Who』。1999 年リリース。
「いなくなったとしても残るんだ」と書いた本人たちは、幸いなことに、いまもまだバンドを続けています。それでも、この一文の通りだと思う。私の中にも、ファンみんなの中にも、このアルバムは残っている。
棚の CD シリーズの第 1 回に、迷わずこのアルバムを選びました。
このアルバムが Travis を知ったきっかけだった
Travis という名前を最初に意識したのは、「Turn」 という曲でした。
何の前情報もなく、たまたまミュージックビデオを目にして、最後まで見終わったあと、もう一度頭から再生していました。
コンセプトがあるのか、ないのか、よく分からない ── そういう英国らしい MV です。それでいて、一度見たら頭から離れなくなる。
楽曲そのものは、メロディがどこまでも美しくて、サビの「Turn, turn, turn」のところで毎回、胸の奥が引っ張られるような感覚がある。 このアルバムには、そういう曲がいくつも収められています。
楽曲と MV の、絶妙なギャップ
The Man Who を聴いていて気づくのは、叙情的でまっすぐ美しい楽曲 と、ちょっと笑わせにくる MV との温度差です。
歌詞は内省的、楽曲は雨の日の曇った空のような色をしているのに、MV を見るとどこか肩の力が抜けている。 イギリスのバンドって、しばしばこういう「真剣さとユーモアの距離感」を持っていて、そこにいつも惹かれます。
ナイジェル・ゴッドリッチが連れてきた音
このアルバムは、私が 「誰が作っているか」 に目を向けるきっかけ になった一枚でもあります。
きっかけは一人のプロデューサー ── ナイジェル・ゴッドリッチ(Nigel Godrich)。Radiohead の『OK Computer』以降を手掛けたことで知られる、英国を代表するプロデューサーです。
Travis は 1st アルバムの時点では、もう少し直線的でラフなロックバンドという印象でした。それが The Man Who になって、アコースティックギターの響きと、アンビエントと呼びたくなる環境音の質感が、絶妙な距離で混ざり合っている 音に変わります。
ボーカルのフラン・ヒーリーの歌い方も、このアルバムからガラッと変わった。声を張り上げるのではなく、囁くように、それでいて深いところに届くような歌い方に。
正直なところ、このバンドはナイジェル・ゴッドリッチによって活かされた と思っています。 彼が Travis のもともと持っていた繊細さを引き出したからこそ、The Man Who のあの空気がある。
このアルバム以降、私は CD のブックレットの クレジットを必ず読む ようになりました。 誰がプロデュースしているか、誰がエンジニアリングしているか、そこまで含めて音楽の一部なんだという視点は、間違いなくここから始まっています。
聴き所 ── "As You Are" から "Why Does It Always Rain on Me?" までの流れ
あえて 1 曲 1 曲の細かい話はしません。 代わりに、アルバムの聴き方 だけ書いておきます。
The Man Who は、3 曲目の "As You Are" から 7 曲目の "Why Does It Always Rain on Me?" までの流れ が、本当に素晴らしい。
ここを飛ばさずに通して聴いてほしい。シャッフル再生では味わえない、アルバムが「流れ」として組まれていた時代の良さ が、この区間に詰まっています。
その後の曲も、そのまた次の曲も、それぞれが大事な役割を持って並んでいて、最後の "Slide Show" まで、たぶん 50 分が一瞬で終わります。
帯の一文に戻って
最後にもう一度、あの帯の言葉に戻ります。

俺たちがいなくなったとしても音楽はここに残るんだ……
書いた本人たちはまだ第一線で活動を続けていて、新しいアルバムも出ています。それでも、彼らがこの一文を 1999 年のアルバムに添えた気持ちは、いまよく分かるような気がします。
CD という物体そのものは、いつか壊れたり、私が手放したりするかもしれない。 でも 音楽は、聴いた人の中に残ります。
20 数年前にこのアルバムを聴いた当時の私は、いまの私の中にちゃんと残っているし、いまの私が聴き返すと、また新しい何かを受け取れる。
それで充分に、このアルバムは「残っている」と言えるのだと思います。
棚の CD コレクションへ
棚の CD シリーズ、第 1 回はこの一枚でした。 次に取り出す CD は、まだ決めていません。クローゼットを開けて、なんとなく目に止まった一枚を、また連れてきます。
それまでに The Man Who を聴き返してくれた方がいたら、嬉しいです。
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