
カッコいい、と一言で済んでしまうバンドがあります。 Stereophonics(ステレオフォニックス)。ウェールズ出身の 3 ピース・ロックバンド。
そして、私がここで取り上げる 1 枚は、彼らの 3 作目 ── 『Just Enough Education to Perform』(2001 年)。 ファンには J.E.E.P.(ジープ) と呼ばれることもある、全英チャートで 1 位になったアルバムです。
バンドを始めた頃に出会った 1 枚
このアルバムに出会ったのは、私自身がバンドを始めた頃のことでした。
色々な音楽に触れて影響をかき集めていた時期に、ステレオフォニックスは 「シンプルにかっこいい」 と思えるバンドでした。技巧的にすごい、目新しい、というよりも、佇まいでカッコいい タイプ。
3 ピースで、無駄な装飾がない。 それなのに、出てくる音には確実な存在感がある。
バンドの「立ち姿」だけで、もう曲の半分が成立している ような、そういう種類のかっこよさです。
憧れて Gibson SG を買った
ケリー・ジョーンズ(Kelly Jones、ボーカル&ギター)への憧れから、私は Gibson SG を買いました。 若い頃の自分にとって、ある種の覚悟の伴う買い物だったと思います。
SG の魅力は、あの細身のダブルカッタウェイの形と、ハムバッカーから出てくる粘りのある中域。ステレオフォニックスのバンドアンサンブルには、まさにそういう ロックの太さ がよく似合っていました。
その SG はいま実家に置いたままになっていて、次に帰省したときに、また少し弾いてみたいなと思っています。
余計なものを足さない、という美学
このアルバムを言葉にしようとすると、自然とこういう表現になります。 コード進行は極力抑えめ。でも、メロディはドラマチックで、かつ優しい。音のひとつひとつが際立っていて、余計なものを足さない ── 男らしさの象徴 のような作り。
3 人で出せる音だけを、整えて、運ぶ。それで十分。 むしろ「足さないからこそ、ひとつひとつが効く」という構造になっています。
ケリー・ジョーンズという、ギターボーカル
ここからは少し個人的な確信を書きます。
ケリー・ジョーンズは、私が思う UK バンドで一番歌の上手いギターボーカルです。
ギターを弾きながら、しっかり歌う ── これは経験のある人なら分かると思うのですが、思っているよりずっと難しい。両手とリズム感と発声を、別々の運動として走らせながら、ひとつの楽曲としてまとめる必要がある。
ケリーは、これを軽々と越えていく。 発声、ギターのプレイ、ギターの音作り、そのすべてが超一流 で、しかもそれをバンドの真ん中で担っている。
スタジオレコーディングの研磨されたバージョンも、ライブの少し荒れた音も、どちらにもケリーの声と音はちゃんと残っている。彼を聴くと、「シンガーとしての一流さ」と「ギタリストとしての一流さ」は、本当に同じ人の中に並び立つんだなと思わされます。
聴き所 ── 4 つの曲
このアルバムは通しで気持ちよく聴けるのですが、特に印象に残っている曲を 4 つ挙げます。
Lying in the Sun
太陽の下に寝転がっているような、穏やかな広がりのある 1 曲。アルバムの空気感を象徴しています。
Have a Nice Day
シングルにもなった、ステレオフォニックスを語るときに外せない曲。 皮肉とユーモアと優しさが同居した歌詞、リフ、サビ。すべてが軽やかで、でもしっかり残ります。
Handbags and Gladrags
ロッド・スチュワートのバージョンが有名な、Mike d'Abo 作曲のクラシック・カバーです。 ステレオフォニックスのこの 1 曲は、原曲とロッド・スチュワート版の系譜を継ぎつつ、ケリー・ジョーンズの声にしか出せない説得力 で歌い直されています。
「自分のオリジナルではない曲を、自分のものにする」という芸当を、これだけ自然にやってのけられるシンガーは多くありません。
Watch Them Fly Sundays
メロディの引きと、ギターのテクスチャの絡み方が美しい 1 曲。日曜日に空を見上げているような、どこか浮遊感のある時間が流れます。

スチュアート・ケーブルに、敬意を
最後に、このアルバムでドラムを叩いていた スチュアート・ケーブル(Stuart Cable) に敬意を込めて。
ステレオフォニックスの創設メンバーで、バンドのリズムの軸を長く担っていたドラマー。 彼は 2003 年にバンドを離れた後、2010 年に若くして亡くなりました。
彼のドラムは、テクニックを誇示するタイプではなく、バンドの呼吸とぴったり同期して、必要な音だけを叩く ような種類でした。 J.E.E.P. のミニマルな美学は、彼のドラムの引き算の上に成立していたと、いま聴き返しても感じます。
ありがとう、スチュアート。
棚の CD コレクションへ
棚の CD シリーズ、第 3 回はこの一枚でした。 余計なものを足さない、3 人だけで成り立っているバンドの「佇まい」を、もう一度確かめたくなったら、ぜひ通して聴いてみてください。
次に取り出す CD は、まだ決めていません。 クローゼットを開けて、なんとなく目に止まった一枚を、また連れてきます。
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