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現像ノートSeason 6STIL.HUB第 5 話 / 全 6 話

現像ノート

「iPhone を、」と書けなかった ── 言葉を、探して回る

最初のサブタイトルは「iPhone を、Mac の操作盤に。」でした。審査の指摘は、この iPhone の使い方。言葉を差し替えるだけ ── のはずが、同じ言葉は、サイトの見出しにも、SNS 用の画像にも、審査用に撮った動画の冒頭にも住んでいました。言葉を変えるとは、一箇所を直すことではなかった、という話です。

「iPhone を、」と書けなかった ── 言葉を、探して回る

前回までは、コードの中の話でした。今日は、コードの外 ── 言葉の話です。レシートのときに 「対応」とは、書かないと決めた という話を書きましたが、今回は逆に、書きたかった言葉が書けなかった話です。

「iPhone を、Mac の操作盤に。」

App Store のアプリには、名前の下に、サブタイトルという一行が付きます。STIL ファミリーはここに「◯◯を、◯◯に。」という型の短い一文を置いてきました。レシートを、経費に。話を、記録に。

HUB のために用意したのは、「iPhone を、Mac の操作盤に。」でした。やることがそのまま書いてあって、型にも合っている。気に入っていました。

指摘は、一語だった

初回の提出は、通りませんでした。指摘のひとつが、このサブタイトルです。いわく、iPhone という言葉の使い方が、商標のガイドラインに合っていない。

面白いのは、「Mac」は指摘されていないことです。「for Mac」のように、対応先として参照する書き方は認められている。ダメなのは iPhone のほう ── このアプリ自身が iPhone の上で動くので、名乗りの位置に iPhone を冠すると、Apple 自身の製品のように見えうる、という筋のようでした。プラットフォームの名前は、借り物です。借り物は、名乗りには使えない。

新しいサブタイトルは、「Mac の操作を、手元に。」にしました。iPhone という語を外して、「手元」という自分の言葉に置き換える。型は守ったまま、名乗りから借り物が消えました。いまとなっては、こちらのほうが好きです。手元、という言葉には、机の上の距離感まで入っているので。

もうひとつの宿題

指摘は、もう一件ありました。実機の iPhone と、相棒が動く Mac が同じ画面に写ったデモ動画を見せてほしい、というものです。二台構成のアプリは、片方だけでは審査のしようがないので、これはもっともな要求です。初回ペアリングから一連の操作までを通しで撮って、3 分 31 秒の動画を自分のサイトに置き、審査資料として提出しました。

言葉は、一箇所には住んでいない

さて、ここからが本題です。サブタイトルを差し替えて、提出し直す ── だけでは、終わりませんでした。

「iPhone を、Mac の操作盤に。」という言葉は、App Store の外にも住んでいたのです。製品サイトの見出しに。SNS でリンクを共有したときに出る画像の、焼き込み文字に。そして、審査のために撮ったデモ動画の冒頭 40 秒に、その見出しが大写しで映り込んでいました。「サブタイトルから外しました」と返信する動画の頭に、外したはずの言葉が映っている ── これでは、直したことになりません。

結局、対応の実体は、修正ではなく捜索でした。あの言葉はどこで暮らしているか。サイト、画像、動画、ストアの説明文。ひとつずつ洗い出して、差し替えて、動画は冒頭を切り落としました。サイトの側も、見出しから SNS 画像まで、すべて新しい言葉に揃えてあります。

言葉を変えるということ

コードの世界では、名前を変えると、参照している場所がすべてエラーになって教えてくれます。言葉の世界には、その仕組みがありません。どこで使ったかは、自分で覚えているしかない。そして、たいてい覚えていません。

言葉を変えるとは、一箇所を直すことではなく、その言葉がどこで暮らしているかを、探して回ることでした。再提出から一日で、審査は通りました。着想から数えて、十二日目のことです。

次回

次で、Season 6 は最終回です。iPhone が手元の操作卓になるまでを通してたどって、それから、この家族で初めての「無料」の話をします。

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